緊急事態宣言下に考える (2021年)

 緊急事態宣言下で始まった2学期も、まもなく一ヶ月がたとうとしています。8月下旬には県内の新規感染者は増加傾向にあり、新たな変異株は10代未満にも感染するという状況下で、新学期にどのようにしてお子様たちを迎えたらよいかと思案しました。結果として当園は、マスクの着用や手指の消毒、園内の清掃は従来通り行い、密にならないこと、換気をよくすることに主眼を置き、分散登園を選びました。室内での活動や給食は空いている教室を利用したり、座席の位置を工夫したりしながら保育を行なっております。このやり方がベストかどうかは後で検証が必要かと思います。今後季節が秋から冬になり、他の感染症が流行る季節が訪れた時に、この経験を活かしていきたいと思っております。

 さて、このような状況下であるからこそ、子ども達には外で思い切り身体を動かしてもらいたいし、お友だちとの遊びを楽しんでもらいたいと願います。落ち葉を集めたり、虫をつかまえたり、泥遊びを通して土の感触をあじわったり、季節の自然に触れてもらいたいと思います。

 また、長期の休みに入る時に「お家の人のお手伝いを何でもいいからしてね」と子供たちにお話します。これは、自分も家族の一員だという自覚をもってもらいたい。最後まで一つの事をやり遂げてほしい。そして友達と熱中して遊び、遊びを通して人間関係の機微を学ぶ様に、お手伝いを通して、自分の手や身体を動かして人の為に何かをやり通すという実感の伴う行為を体験してもらいたいのです。

 今のお子さんは生まれたときからデジタル世界が身近にあって、スマホやタブレットを苦も無く扱い、楽しむ姿には驚かされます。その反面、リアルな体験や人間同士の心の交流を学ぶ機会を逃がしてしまうのではないかと心配になります。

 スマホやタブレットは、非常に便利で私達の生活になくてはならないものになってきました。しかし、子供たちに安易に与えてしまってよい物でしょうか?

 世界的ベストセラーの要約と、気になる箇所を抜粋でご紹介します。

 

スマホ脳

                                                                                           アンデシュ・ハンセン

 今や、現代人の生活に欠かせないスマホ。だがその便利さに溺れていると、私たちの脳は確実に蝕まれる。うつや学力低下などスマホが及ぼす弊害を、最新研究を基に明らかにする。



人類は地球上に誕生して以来、99.9%の時間を狩猟と採集をして暮らしてきた。人間の脳は、今でも当時の生活様式に最適化されており、現代のデジタル社会には適応していない。



今日、多くの人はスマホに依存している。この依存を引き起こすのが、脳内の報酬システムだ。人間には新しい情報を求める本能があり、スマホの画面をめくるごとに脳が報酬物質のドーパミンを放出する。その結果、人は依存に陥る。



脳は1度に1つのことにしか集中できない。例えば、新しい記憶を作るには、特定の情報に集中する必要がある。だが、チャットやツイートなどを絶えずチェックしていると、集中力が削がれ、情報を記憶に変えるプロセスが機能しなくなる。



SNSは人と連絡をとるのに便利な道具である。だが研究によると、SNSを熱心に利用する人ほど孤独を感じることが明らかになった。また、現実に人と会う人ほど幸福感が増し、フェイスブックに時間を費やす人ほど幸福感は減ってしまう。後者はSNSを通じて、常に他者と自分を比較してしまうからだ。



調査によると、ティーンエイジャーは1日3~4時間をスマホに費やす。10代の頃はドーパミンの放出が活発な上に、衝動を制御する能力が成熟しておらず、依存症になるリスクが高い。にもかかわらず、若者のスマホ私用に関する規制はない。


多くの学校が、授業中のスマホ私用を禁止している。ある調査では、スマホを持っていない子どもの方がよくノートを取っており、授業内容についてもよく覚えていた。

 

IT企業トップは子供にスマホを与えない

 IT企業トップは、自分たちが開発した製品に複雑な感情を抱いている。その最たるものが、スティーブ・ジョブズのエピソードだ。

 ある記者が、インタビューでジョブズにこう尋ねた。「自宅の壁は、スクリーンやiPadで埋め尽くされてるんでしょう?」

 それに対するジョブズの答えは、「iPadはそばに置くことすらしない」。そして「スクリーンタイムを厳しく制限している」と話した。テクノロジーがどんな影響を与えるのか、ジョブズは的確に見抜いていた。だから、自分の子どもの使用には慎重だった。彼の10代の子供は、iPadを使ってよい時間を厳しく制限されていたのだ。

 ジョブズだけではない、ビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホを持たせなかったという。

 現在、スウェーデンの11歳児の98%が自分のスマホを持っている。ビル・ゲイツの子供たちはスマホを持たない2%に属していたわけだ。

 

著者紹介  Anders Hansen

 1974年生まれ。スウェーデン出身。前作『一流の頭脳』が人口1000万人の同国で60万部の大ベストセラーとなり、世界的人気を得た精神科医。カロリンスカ医科大学で医学を学び、ストックホルム商科大学でMBA(経営学修士)を取得。

 抜粋・引用  新潮社 (新潮新書)
   TOPPOINT 2021年2月号より

   

バックナンバー
創刊号 カオル幼稚園はこのように考える。(1979年)
2 カオル幼稚園はこのように考える。(1980年)
3 躾について (1981年)
5 21世紀を担う子供たちに明るい社会を (1983年)
9 この10年を顧みて (1987年)
10 子供の将来には無限の危険性も (1988年)
11 家庭での子供達の生活空間を考える (1989年)
12 玩具あれこれ (1990年)
13 子供の食習慣と栄養 (1991年)
15 子供達の自主性を育てよう (1993年)
16 やり直しがきかない子育て (1994年)
17 感性をはぐくむ (1995年)
18 遊びについて (1996年)
19 自然に遊ぶ、大地に学ぶ (1997年)
20 父親に期待される子育て (1998年)
21 女性の社会進出と子育て支援 (1999年)
22 思いやりの心を育む (2000年)
23 これからのエリート教育 (2001年)
24 子育て環境は8歳までが勝負 (2002年)
25 メディア漬けから子供たちを守ろう (2003年)
26 これからの子育て支援 (2004年)
27 ことばの教育 (2005年)
28 食育について考える (2006年)
29 真っ当な人間に育てる (2007年)
30 創立30周年にあたって (2008年)
31 「自然」は最良の教師 (2009年)
32 本を読む習慣を付けよう (2010年)
33 群れ遊びについて考える (2011年)
34 こどもには沢山の体験を (2012年)
35 美徳を取り戻そう (2013年)
36 国際化とこども教育 (2014年)
37 子ども・子育て新制度を考える (2015年)
38 リーダーを育てる (2016年)
39 データから見た幼児教育の重要性 (2017年)
40 人工知能時代を生き抜くこども達 (2018年)
41 これから世界的に活躍出来る人に (2019年)
42 カオル幼保グループの考え方 (2020年)
43 緊急事態宣言下に考える (2021年)